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インフルエンザ

 インフルエンザ…毎年秋になるとワクチンに奔走し、冬になると流行…

 そして、メキシコ発の「新型インフルエンザ」で、昨年は、ちょっとしたパニック…

 鼻をグリグリする検査に、特効薬と思ったら、副作用…

 病気の中でもマスコミに取り上げられる頻度が最も高く、最も有名な病気になってしまいましたが、はてさてその正体・実態はいかに…

詳しく知りたい方は

厚生労働省「インフルエンザの基礎知識」などを熟読しましょう。わたしのいい加減な解説を読むよりよほど役に立ちます…

また、当院を受診される「インフルエンザにかかったかも…」という方向けに、当院での対応などまとめて、待合室で配布しているパンフレットのPDFファイルも希望の方はどうぞ…

インフルエンザの歴史

最近になって出てきた奇病のようにマスコミで喧伝されるインフルエンザではありますが、その疫病としての歴史は意外に古いのです。

<東京医学社「小児内科」2003年10月号の記事によりますと…>

 紀元前のエジプトやギリシアの歴史書では、すでにインフルエンザの流行らしい記述がみられるそうです。(もちろん当時は検査などできなかったので、それという証拠はないのでしょうが…)

 ちなみに、「インフルエンザ」という名前は、1358年のイタリアで、医者と占星術師が、「星や彗星の影響を受けている病」と推測して「インフルエンザ」と命名したのが最初とのこと…

 日本でも平安時代から、毎年のように冬に多くの人が「咳逆」を患い、多くの死者が出たとの記録があり、当時の人々は朝鮮半島から「異土の毒気」がもたらされたと噂しあったそうですが、これがインフルエンザであったのであろうと推測されます。時代は下って、江戸時代には「流行風」「時候風」などと呼ばれ、明治になって「流行性感冒」、大正には「スペインかぜ」などと呼ばれ、「インフルエンザ」の呼称は昭和に入って一般に広まったということらしいです…

 というわけで、昔からおなじみのインフルエンザなわけですが、昔(といっても15年くらい前)は、そんな気にしてなかったような気がしませんか?最近でこそ、「インフルエンザはかぜとは違う!」などと声高々に宣言されることも多いのですが、ちょっと前までは「流行性感冒(りゅうかん)」つまりは、「流行性のかぜ」とされていました。

患者さん「あの…先生、わたし インフルエンザでしょうか?」
医者「うーん、流感でしょ…」
患者さん「ああ、そうですか…」
医者「かぜぐすりをだしておくので、ゆっくり休みなさい…」

などという、今からみればトンチンカンな会話も成立していたのです…

簡単に判定できる検査が2000年頃から普及してきて、また特効薬の出現もあり、インフルエンザが過剰に厳密に診断・治療されるようになってきたという考え方もありそうです。

 

​インフルエンザウイルスの生き残り戦略

ウイルスによる病気っていうのは、一度かかると、免疫ができて次からかかりにくくなると聞いたことがあるでしょう。インフルエンザなんて、これだけ毎年のように流行して、多くの人が免疫を持てば、流行する余地はそろそろ、いい加減なくなりそうなもんですが、毎年、律儀にしぶとく流行するインフルエンザ…毎年のようにワクチン接種してるのに毎年のようにかかってしまい、煮え湯を飲まされる思いの方も多いのではないでしょうか…

 インフルエンザウイルスの生き残り戦略を知るためには、まずインフルエンザウイルスの構造から知る必要があります。

<< インフルエンザウイルスの構造(ABCの話) >>

 Wikipediaに掲載されているインフルエンザウイルスの模式図をご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インフルエンザウイルスは、まず膜タンパク(M1、M2)と核タンパク(NP)の違いから、大きくA型、B型、C型に分けられます。

  1. •A型:ヘマグルチニン(HA、15種類)、ノイラミニダーゼ(NA、9種類)の組み合わせの違いによって、亜型として細かく分類されます。
    現在、A/ソ連型(H1N1)、A/香港型(H3N2)が、広く世界中で見られ、毎年のように流行していましたが、昨年の新型(H1NI)ソ連型に取って代わったようです…
    さらに、亜型の中でもホンの少しずつ性質の違う、「株」も存在していて、発見された都市の名前などが付いています。

•B型:毎年のように流行します。亜型は1つのみです。

•C型:人に感染しますが、大きな流行は起こしません。亜型は一つのみです。

<< 生き残りのためのモデルチェンジ >>

 毎年のようにインフルエンザにかかってしまう人もいて、免疫ができにくいウイルスというイメージがあるかと思いますが、実のところ1度かかると30年ぐらいは有効な強い免疫ができることがわかっています。
 それにもめげず、インフルエンザは各型、亜型の中での細かいモデルチェンジをくりかえして、毎年はびこり続けています。これを「抗原性の連続変異(ドリフト)」といいます。
 そして数十年に一度、亜型の変化(H1N1→H1N5など)をおこし大流行します。これを「抗原性の不連続変異(シフト)」といいます。今、ちまたで騒がれている新型インフルエンザの話は、この抗原性のシフトのことを話題にしているわけです。

「インフルエンザ」と「かぜ」はどうちがうの?

 

「インフルエンザ」はインフルエンザウイルスによっておこる「きついかぜ」で、「普通のかぜ」はインフルエンザウイルス以外のウイルスや、細菌などによってひきおこされる「かぜ」です。

 ???な回答ではありますが、「かぜ」という言葉の使い方が、まず問題になるわけで…そもそも、この問い自体がナンセンスといえばナンセンスなんですが…たとえていうなら、「キムタクとSMAPはどうちがうの?」みたいなものでしょうか…

 「普通のかぜ」でもインフルエンザ同様、のどの痛みから、はなみず・せき、そして発熱といった症状がみられますが、インフルエンザでは、発熱や、頭痛・関節痛などの症状が強く出る傾向があるのは確かです。肺炎や中耳炎といった合併症も起こりやすく、高齢者や呼吸器や心臓などに慢性の病気を持つ人は重症化することが多く、こどもではまれに、急性脳症を起こして死亡することがあります。
 しかし、普通のかぜであっても、発熱がきつかったり、肺炎や脳症を合併することも決してまれではありません。インフルエンザに注意することは必要ですが、普通のかぜなら大丈夫ということではありませんので、ご注意ください。

どうやって感染するの?

 インフルエンザウイルスはホコリなどにくっついて空中を舞い、ヒトに吸い込まれると、鼻やのどの粘膜にくっついて感染を起こし、その場で増殖します。つまりつばや鼻水の中にはウイルスがごっそりと含まれています。

 しゃべっているだけでもウイルスは飛んでいきますし、ましてやクシャミや痰などもってのほか、流行阻止のためには、産業廃棄物もしくは最近の副流煙なみの扱いが必要かもしれません…

 

インフルエンザ脳症って?

 インフルエンザの経過中(たいていは発症の初期)に、急に変なことを言い始めたり、意識低下もしくはけいれんを起こしたりして発症します。
 一度おこると、適切に治療を受けても死亡や後遺症の確率が高い非常にこわい病気です。

<< いったいどうやっておこるの? >>

 この病気は、インフルエンザウイルスが脳に入っておこると思っている人も多いかもしれませんが、実のところ脳からインフルエンザウイルスが見つかることはほとんどありません。
 実はインフルエンザウイルスに対する体の免疫反応の異常というのが正体です。

 ウイルスや細菌に対する体の防御反応は、サイトカインという物質で調節されていますが、この防御反応はしばしば暴走をおこします。身近でよくあるのが、じんま疹や、花粉症、アトピー、喘息といったアレルギー疾患です。
 つまり、インフルエンザ脳症は、インフルエンザ感染を契機としておこる脳を中心としたきついアレルギー反応とイメージしていただいてよいでしょう。

<< どうすれば防げるの? >>

 じんま疹がすべての人で起こりえるのと同様に、インフルエンザ脳症もすべての人に起こりえます。
 侵入したインフルエンザウイルスの性質と、侵入された人の体質や体調との相性が合いすぎ(合わなすぎ?)てしまうとおこる病気といえますので、基本的には相性の悪いウイルスに侵入されて、たまたま反応を起こし始めたら、防ぐことは不可能です。
 特効薬のタミフル内服や、ワクチン接種でも、脳症の発症率を下げるというデータは今のところないようです。つまりは、インフルエンザウイルスをもらわないようにするというのが唯一の予防法ということになります。

インフルエンザの治療

インフルエンザの治療は、一般的には対症療法が主になります。

 安静にして、水分をしっかり補給することが一番肝腎です。
 咳止めや胃腸薬内服で咳や胃腸症状を少しましにすることも有効です。
 熱が高い時には、解熱剤を使用して熱を下げることも有効です。

<< 坐薬を使ったら脳症になりやすいって聞いたけど? >>

 サリチル酸系の解熱剤(アスピリン)が発症に関与しているといわれるライ脳症と混同されているようですが、「解熱剤を使用するとインフルエンザ脳症の発症率が高くなる」というデータは今のところないようです。
 しかし、ある種の解熱剤を使用していた人で、インフルエンザ脳症にかかると重症化しやすい(死亡したり、後遺症が残りやすくなる)というデータがあります。「ポンタール」や「ボルタレン」という名前の解熱剤がこれに当たります。
 ホントに関係があるのかどうかは、まだはっきりわかってはいないようですが、小児では安全のため使うのをひかえた方がよいでしょう。
 ボルタレンは、解熱鎮痛効果が強く、かつては「インフルエンザといえばボルタレン」みたいな感じで使用されていたのですが…

 現在、小児で安全とされる解熱剤はアセトアミノフェン(アンヒバ、アルピニー、カロナール、当院ではサールツーなど)のみです。比較的安全な解熱剤で、アメリカではドラッグストアで、ペットボトルみたいな容器に入って売られていたりするそうです。(ちなみに先輩の先生に聞いたところ、日本で使用する薬用量の1.5倍くらいを4時間おきにがぶがぶ飲むのが、アメリカ流のインフルエンザ治療ということらしいです…)インフルエンザで真剣に熱がきつい時には、あまり効かないのがタマにキズですが…

<<特効薬?薬害?タミフルって…>>

 ノイラミニダーゼ(インフルエンザの図をよく見ましょう。インフルエンザウイルスが細胞の中でふえて細胞外へ飛び出す時に働く部分なのだそうです。)の働きを抑えて、インフルエンザのウイルスが増殖するのを抑える薬です。(つまりウイルスをやっつけるわけではない!)ウイルスの増殖を抑えて、体との反応を弱めることで、熱が早く下がるという効果をもたらします。しかし、熱が下がったあともウイルス自体は存在するので、周りにうつす期間は結局変わらないともいわれています。
 また先ほどふれました脳症は、ウイルスの量とは関係なく、体自身が過剰に反応することでおこりますので、タミフルで抑えることはできません。しかし、少しでもウイルス量が減れば、過剰反応も早く終わるであろうということで、脳症の治療にはタミフルも使用されます。

<<タミフルの副作用っていったい…>>

 副作用は特に出やすいということはないようです。比較的よく見られるのは胃腸症状です。薬用書に記載された薬用量ですと、内服中、嘔吐がひどくでる方が多いような印象を受けます。(そんなときには服用量を少し減らしたり、いっそやめてしまった方がよいことが多いようです。)

 2005-2006のシーズンに、異常行動など死亡例の報告がマスコミをにぎわせた時には、厚生労働省の公式見解として、タミフルの副作用とは断定できないとして、使用は躊躇する必要はないとされていました。(もともとインフルエンザ自体に異常行動などの症状が出やすいために、タミフルによるものとは断定できないという論拠です。)しかしながら、2006-2007のシーズンには、一転して、因果関係を否定できないとして、原則10歳以上の未成年には使用しないという方針になりました。
 もともとタミフルには、脳に影響を与えるかもしれないという懸念はありました。幼若な実験動物と、成熟した実験動物にタミフルを大量投与して比較してみると、幼弱な方では予想以上に脳内に蓄積したという実験結果があり、それ以後、1歳未満の乳児への投与が原則禁忌とされたことは有名な話です。

 ちなみに、新型インフルエンザでは、タミフルと、吸入薬「リレンザ」を積極的に使用するように指導があったため、品不足に陥るほどに使いまくられました…一応そのおかげで、他国に比べて、日本では新型インフルエンザによる重症化例や死亡例が少なかったとの説明がなされていますが…そこまでやる必要があったかどうかは疑問も残るところです…

まあ、接種時期の遅れたワクチンや、パフォーマンスのための水際検疫などといった、ずさんな感染拡大防止策の失策を、ある程度カバーしてくれたという点では一定の評価がなされてもよいでしょう。

 

​インフルエンザの予防

<<インフルエンザにかからないためにはどうすればいいの?>>

 ウイルスと接触しない…が唯一の方法です。流行している時には人混みに出ない。うがいと手洗いをまめにする。規則正しい生活とバランスのとれた食事で体調を整えておく。
 ありきたり(ではあるが難しいということは重々承知ですが…)ですがそれが基本です。

<<インフルエンザワクチンって効果はあるの?>>

 多くの人数で統計を取ると、接種した人の方が接種していない人よりも、ややかかりにくい傾向がある…ということはわかっています。しかし、毎年のように接種してもかかってしまう人が多いのは事実です。
 ウイルスに接触しても発症しないようにするワクチンというよりも、全体としてウイルスにさらされる機会を減らすためのワクチンと考えていただいた方がよいでしょう。
 ちなみに、1970-80年代は学童集団接種が行われていました(小学校の時にみなで並んで接種したことをおぼえておられる方も多いでしょう)が、1994年、集団接種は無意味であるという意見が多く中止になりました。しかし接種の中止後インフルエンザによる死亡の報告は急増しているとのことです。死亡例の多くは集団接種を受けていた小学生ではなく、高齢者なのですが、学童の集団接種が高齢者のインフルエンザでの死亡を大幅に減らしていたということになり、ここら辺にインフルエンザワクチンの意義が見てとれます。
 また乳幼児でのインフルエンザ脳炎・脳症の多発が報告されるようになったのも、集団接種が中止になったあとのことで、学童の集団接種には乳幼児がインフルエンザにかかるのを抑える効果もあったといえそうです。(単に診断精度が上がって、インフルエンザ脳症と診断できるようになったから増えたのだという意見もあります。アメリカではインフルエンザ脳症での死亡例は少ないとされていますが、原因不明の脳症が非常に多いそうです…)
 ちなみにワクチン接種後の抗体価(免疫の力)の動きを見ますと、インフルエンザにかかった経験のある人(一度インフルエンザに対する抗体を作ったことがあって、次への備えのできている人)では顕著に抗体ができることがわかっています。つまり、一から抗体を作るというよりも、抗体を作りやすい状況になっている人で、抗体をしっかり作る働きが主であるということです。しかし、インフルエンザというのはあくまでのどなどの粘膜の表面で感染繁殖するので、血液中で抗体ができてもあまり意味がないという全くごもっともな意見も最近見かけたりしたことがあります。

<<ワクチンの副作用は?>>

 他のワクチンと比較して特に副作用が起きやすいとは考えられません。
 よく見られる副作用として、接種あとの発赤・腫脹、接種後の発熱、倦怠感、その他下痢などの体調不良を訴えられる方は少なからずおられます。
 インフルエンザワクチンのみならず、すべてのワクチンに共通、かつ、もっとも注意すべきはアナフィラキシーショックです。ほとんど起こることはないとされてはいますが、おこってしまうとすみやかかつ集中的な治療が必要となりますので、アナフィラキシーが起こりやすいとされる接種後20-30分は、特に状態の変化に注意しましょう。

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